夏休みの思い出② ~夏の隙間に変形菌(奥入瀬・蔦の森編)~


前回の投稿に続き、この夏休みに出会った変形菌の話。

8月のお盆帰省の際、山形県をちょっと北上して3年ぶりに家族で青森県・奥入瀬へ。

今回も2泊3日のタイトな旅程である(到着日・出発日でほぼ一日取られるので…)。


奥入瀬では毎回「奥入瀬自然観光自然研究会(通称:おいけん)」にネイチャーツアーをお願いしている。

 今回は今年度から同会の理事長になられたNさんに恐れ多くもガイドしていただくことになった。

とはいえ、Nさんとは代表になられるずっと前、お互い30代の頃からおいけんを通して知り合い親しくさせていただいている。

さらに同世代で、子どもも同い年ということから、会えば色々と話はつきない。


奥入瀬エリアのメインとなる「奥入瀬渓流」は、夏休みの観光客でかなり賑わっているとのことで、

今回は十和田湖、奥入瀬渓流からやや北に位置する「蔦の森」を久々に案内していただくことになった。

 「蔦の森」は名湯・蔦温泉に遊歩道の入口があり、そこからブナの森に点在する

蔦沼、鏡沼、月沼、長沼、菅沼、瓢箪沼の6つの沼を巡れる散策コースがある。


今回は、すべての沼を周るのを目標に・・・でもその時の森の生き物たちとの出会いを最優先に、のんびり森を歩くプラン。

この〝森のぶらぶら歩き(ランブリング)〟こそが、おいけんネイチャーツアーの醍醐味であり、

逆に速足で時間内に観光スポットをたくさん回るツアーをおいけんでは行っていない。



▲息子が早速小さなキノコを発見


▲ツタウルシ。これは汁を触るとかぶれるので要注意とのこと



蔦温泉を出発して15分ほどは、Nさんのお話を聴きながら私たち家族もまとまって歩いていたが、

途中からはスローすぎる私とNさんのペースに夫と子どもがしびれを切らして離脱…。

ブナ林に囲まれた遊歩道の先に、いったいどんな景色が待っているのか、勇み足で進んでいく男たち(夫&男児ら)。



わかる、わかるよ、限られた滞在時間の旅先でそういう気持ちになるのも。

だけどよ、ほとんど動かなくても、もう観るべき美しいもの、不思議なものはすでに足元にあるの。

それを知っているNさんと私はどうしても速くは歩けない・・・。



▲ミヤマワラビとスギゴケの仲間


▲ヘビノネゴザ

▲出始めのドクツルタケ(かな?!)


▲チシオタケ。表面に傷をつけたところが空気と接触して赤くなっている


▲ホウキタケの仲間かな?


▲小さい~!たぶんオチバタケの仲間



▲真夏によく出るというトンビマイタケ。食用としても人気らしい




▲蔦の森に点在する沼の一つ「月沼」


▲沼のほとりに繁茂していたコケ(クモノスゴケの仲間かな??)と、コケの上に顔を出すキノコたち


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ちょっと歩いては立ち止まり、また歩き出しては立ち止まり、を繰り返す私たち。

ちなみに2024年は久々にどんぐりが大豊作の年だったそうで、

辺りに無数に転がっているどんぐりを足裏に感じながらゆっくりと進んでいく。


最初はコケ、その次にシダ、さらにキノコと観ていくうちに、

最後に出会ってしまったのが変形菌の大群落だった。


▲最初に見つけたのは、足元に転がっていたブナの殻斗(かくと。実を包んでいる部分)。

何やら白い異物が・・・あっ、もしやこれは変形菌?!


▲すぐ近くの落ち葉にも!


▲遊歩道の脇を見ると立派な倒木。朽ち具合からみても、こりゃぁあやしい!


▲いたー!大群生!


どれどれ、あなたは誰なのかな?とルーペでのぞいてみると・・・


▲まるで自分が海の中に潜って、サンゴ礁を見つめているような気分になってくる・・・


▲「おぉ~、いいですね~」とNさんもカメラを構える


種類はおそらく「エダナシツノホコリ」。

近縁種の「ツノホコリ」は鹿の角のように二叉分枝するが、

こちらはにょろにょろと一本立ちで伸びるタイプだ。



さらに朽木をよく見ていくと、種類の違う変形菌もあちこちに!


▲前者と同じおなじツノホコリのなかでも、半球状で蜂の巣のような形状の「タマツノホコリ」(おそらく)


▲こちらは同じ白でもずいぶん形状が違う。「シロウツボホコリ」あたりだろうか。



▲小さな画鋲のように見えるこっちは何かな?!


▲伊豆で見た「ハナタマモチモジホコリ」と似ているけど、もっと柄が白くて太く、子嚢も黒っぽい



自宅に戻ってから図鑑をチェックしたところ、

形状と基物などから、こちらは「ホシモジホコリ」ではないかと推察。

主に夏に現れる変形菌だそうだ。


ちなみに、前述の川上先生の変形菌についての新聞連載等も読むと、

「モジホコリ」の仲間は変形菌の中でも最も大きなグループ(属)で、

変形菌全体(亜種や変種、品種を含め約1,000種)の約5分の1を占めるのだそうだ。

「モジ」は子嚢の集まりが「文字」のように見えることに由来するという。



▲なかなか朽木から離れられないNさん


私はもちろんのこと、日々、この奥入瀬エリアを歩いているNさんも

この朽木の集合住宅のような有様には大興奮!


「ここ最近ずっと雨が降っていなかったから、変形菌たちもじっと耐えしのんでたんだろうね。

昨日ようやく雨が降ったから、〝待ってました!〟って気分なんでしょう。

この大群生ぶりがそれを物語ってますよ。

いや~、すごいよ。みんな、がんばった!いいですね~!」


とまるで近所の少年野球チームを褒めるかのような口調で、変形菌に温かいまなざしを向けるNさん。

これも日々、森の様子を見守り、生き物たちに意識を向けているからこそ、感じられること。

Nさんの慈愛の言葉を横で聞きながら、私も嬉しくなる。


それにしても、変形菌といえば〝梅雨がシーズン〟とこれまでなんとなく思っていたが、

意外や夏もたくさん見られるものなのだなぁ。

そう思って改めて図鑑を読み直すと、観察時季に「梅雨から夏」や「とくに夏」と書かれている種類もけっこう多い。


今年も記録的猛暑が続いた夏だったが、照り付ける日差しの隙間を縫うように

変形体のアメーバは人知れず森の暗がりに静かに身を潜ませながら、来るべき時を待っていた。

そして昨日の雨で森が十分に湿ると自在に辺りを闊歩し、餌となるバクテリアなどをお腹いっぱい食べ、

雨上り、真夏の乾いた日差しをうまく利用して〝いまだ!〟とばかりに爆発的に子実体を華開かせたのかもしれない。


そんな想像を膨らませていると、コケとはまたちがったやり方でしたたかに生きる彼らにますます興味がわいてくる。


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【おまけ】

青森りんごの専門店、アップルパイとタルトタタンが人気の「あら、りんご。」というお店をご存じでしょうか。

店舗は現在は青森県内と関西圏にしかないのですが、

WEBサイトも充実していてリンゴのスイーツや生のリンゴも取り寄せできます。


じつはこのお店の代表Fさんとはやはり「おいけん」を通じて知り合い、早15年ほどのお付き合い。

そのNさんがパーソナリティーを務めるポッドキャスト「あら、りんご。ラジオ」の第50回配信にゲストとして呼ばれました。


アプリがなくてもおそらく聞けるので、よかったら聞いてみてください。

ちなみに朝7時からの収録で、私は数日前にカラオケからの大山登山を決行していたため、

序盤は声がガラガラ、大変お聞き苦しい有様となっておりますが・・・。

「おいけん」との出会いについても詳しく語っておりますのでぜひ。

移動中や家事作業の〝ながら〟で聞いていただくのがおすすめです。


「あら、りんご。ラジオ」→ 

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